まさかの流産で大きなショックを受けたものの、流産手術は大きなトラブルもなく、術後3週間検診でも全く問題ないとお医者様からお墨付きをいただいて、いつもの日常に戻りつつあった頃のことです。
手術後「だいたい30〜40日で生理が来る」と言われていたのに生理が来ない。あれ?と思いつつも、流産手術も初めての経験だったので、きっとホルモンバランスが乱れて遅れてるんだろう…程度に思っていたのですが、まさかの「胎盤ポリープの疑い」という診断を受けることになりました。
※こちらは、2018年12月に書いた内容をブログ移設に伴い2019年10月に加筆修正したものです。
胎盤ポリープとは?
胎盤ポリープとは,分娩または流産後の妊娠組織の遺残に血管浸潤及びフィブリン沈着によって腫瘤が増大し,ポリープ状になったものである. 発生頻度は 0.05~5.3%と低く稀な疾患ではあるが,時に大出血を引き起こす重要な疾患である
かつては子宮全摘出術が最も確実な治療法とされていたが,近年,子宮動脈塞栓術(UAE)や経頸管的切除術(TCR),メトトレキサート(MTX) 投与による保存療法なども報告され良好な治療結果を得ている
また,胎盤ポリープの中には,時間経過とともに血流が減少・消失し,自然排出が可能であったという報告もあり,治療的介入を行わない待機療法も選択肢として挙げられるようになった.しかし,治療方針の決定にあたり,未だ明確な指針は確立されていない.
フィブリンなんちゃら…と難しい言葉が並んでいますが「胎盤ポリープ」は、かなり発生頻度は低いものの妊娠した女性全て(分娩・流産問わず)に発症する可能性がある疾患のようです。
わたしが先生から受けた説明では「出産や流産の後に、子宮内に赤ちゃんの組織の一部が残ることがある(特に流産手術の場合、完全に全組織を掻き出そうとすると柔らかい子宮を傷つけてしまう可能性があるので若干残ることが多いらしい)。本来ならその残った組織は生理で自然排出されるが、稀に子宮内の筋層内に入り込んで成長をはじめ、腫瘤(ポリープ)化してしまうことがある」とのことでした。
この疾患において重要なサインとなるのが「生理が来ない」ということ。 どうやら、赤ちゃんの細胞の一部が子宮内で成長することでhCG(妊娠中と同じホルモン)が分泌されるので生理が来ない…という原理らしいです。
なお、同様に流産手術後にhCGが分泌されるケースとして「絨毛性疾患」などもありますが、この「絨毛性疾患」は、病理検査で問題が見つかった場合、かつ、hCGの数値も何千〜何万という高い数値であることが特徴。胎盤ポリープは、病理検査で異常がなく、手術後の早い段階ではエコーやhCG値に異常がなく順調な経過をたどっているように見えても、その影で静かにポリープが成長しており、ある時になって突然異常が発見されること。そして、hCG値もそこまで高くならず、低め(2桁〜3桁程度)なことが多いらしいです。
とはいえ、病理検査の精度も100%ではない上に発生率が非常に低いため、診断や治療方針決定が非常に難しいんだそうです。
診断を受けた時のこと
わたしの体に異変が発見されたのは、流産手術から約2ヶ月後の経過観察検診の時でした。手術後30〜40日後くらいに生理が来るはずが、わたしは約2ヶ月経っても生理が来ていませんでした。
内診を終えた先生から「血液検査とMRI検査が必要です」と言われてもまだ正直ピンと来ていなかったのを覚えています。「検査結果を確認してからでないとはっきりしないので、それから詳細についてお話ししていきましょう」と言われ、その日は採血とMRI検査の予約をして病院を後にしました。
MRI検査の結果が出た後の診察で、驚きの展開になります。まず、内診が医師2名体制で慎重に行われました。「やっぱり血流が盛んで……」とか、不穏なトーンで交わされる会話が聞こえます。この段階になると、さすがにジットリした不安が襲ってきていました。その内診後に告げられたのは「胎盤ポリープの疑いがある腫瘤が認められる」でした。
「hCGは100程度と低めですが、腫瘤に血流が盛んで成長が認められます。突然、大量出血が起こる可能性があるので状況によっては「子宮動脈塞栓術(UAE)」という子宮につながる動脈をとめる処置をした上での手術となる可能性があります。しかし、この病院ではUAE手術はできませんので、対応できる大学病院に転院して再診断を受ける必要があります。大学病院に紹介状を書きますので、できれば早々、明日すぐにでも大学病院に行けますか?」
正直、全く気持ちがついて来ず「え?え…?」という感じでした。ようやく先生に「すみません、事情が飲み込めていないのですが大変な病気なんでしょうか?」と間の抜けた質問をしました。
大学病院へ転院することに
どことなく現実感のないまま、うまく働かない頭を必死に動かし病状や危険性などの説明を聞きました。そして一番頭に残ったのは「今後は即手術になるか、抗がん剤による投薬治療になる可能性が高いです」とのこと。
え、手術か、抗がん剤…?!
当然その日の晩は、果てしなく不安な夜を過ごすことになりました。手術も抗がん剤も、どちらも怖い。しかも、胎盤ポリープ自体が稀な疾患だからかネット上にはほとんど情報が見当たらないことで余計に不安が募りました。(その時の経験から、少し時間が経ってしまいましたが、わたしの闘病についてブログに書き残しておくことにしました)
大学病院での再検査と再診断
翌日、大学病院にてMRIデータの再読影とその他血液検査などを行った結果、以下の診断となりました。
子宮内に腫瘤(妊娠関連組織)2.4cm×1.5cm※筋層内中心
血中hCG 73.5mlU/mL
hCG値が高くないことから絨毛腫瘍の可能性は高くなく、大量出血も現時点ではないため、治療選択肢がある。慎重な経過観察が必要だが至急手術が必要な状態ではない。
治療選択肢:
①自然経過観察
完全に腫瘤が縮小するまでに半年前後かかる可能性あり。また、その間、大量出血時には子宮動脈塞栓術や子宮全摘出が必要になる可能性あり。
②メソトレキセート(MTX)点滴
自然経過観察よりも短期間で腫瘤が縮小する可能性があるが、個人差あり。投薬による次回妊娠への影響は基本的になし。また、その間、大量出血時は①と同様の可能性あり。
③子宮動脈塞栓術(UAE)後に腫瘤摘出手術
短期間での治療を望む場合はこの選択肢となるが、次回妊娠、着床へ影響する可能性がある。
やはり稀なケースなので、大学病院でも「胎盤ポリープの疑いがある妊娠関連組織の腫瘤」という診断となり、明確な病名は不明のままでした。ただし、hCG値や腫瘤の大きさが1週間前から横這いなので、絨毛腫瘍(癌化の危険がある状態)の可能性はほぼ否定され、腫瘤の大きさや状態から見て即手術が必要な状態ではないとのことに少しホッとしました。
治療方法の選択に悩む
と、いうことで、治療の選択肢が3つあげられたもののかなり悩みました。
まず、最も避けたいのは「大量出血による子宮全摘出」です。もし大量出血が起こったら「即手術」となる可能性が高く、それでもある程度までの出血量なら子宮を温存した状態での手術ができます。ただ、出血量が多い場合は生命維持を優先させるために「子宮全摘出」をせざるを得ない状況になるとのこと。改めて、命にかかわるような大量出血が常に隣合わせという事実にも泣きたくなります。しかも、投薬や安静などによって大量出血が防げるというものではなく、わたしのように診察時点では即手術が不要と判断されるような小さめの腫瘤であっても、いつ、どんなタイミングで大量出血するかが全くわからないというのが厄介です。腫瘤から血流が失われ、縮小していくことで徐々に大量出血する可能性は減っていくらしいですが、一体いつ大量出血が起こるかと怯える日々を長期間続けたくありませんでしたので、まず「①自然経過観察」は選択肢から消しました。
では、最も短期間で治療出来る③の手術に踏み切るのがいいのか?というと、そう簡単でもありません。摘出手術とワンセットの「子宮動脈塞栓術(UAE)」は、現時点で子宮に与えるダメージによるその後の妊娠への安全性が確立されていないんだそうです。ちなみに、なぜUAEが必要なのかというと、血流が盛んな腫瘤をそのまま摘出しようとすると腫瘤に通っている血流を傷つけて大量出血が起こります。UAEは「子宮動脈塞栓術」の名称の通り、子宮に通っているメイン動脈に栓をして塞ぎ血流を止める手法なので、そうすることで大量出血させずに腫瘤摘出が出来るのです。
ただ、UAEは手術の間子宮のメイン動脈を止める=子宮の血流をほぼ無くすため、子宮機能が回復しない可能性もあり、着床しにくくなるなどの機能低下が起こる可能性もあるそうです。とはいえUAE後に妊娠したケースもあるそうで、完全に妊娠できなくなる訳ではありませんが、妊娠出産を希望している場合は、医師としてもあまり積極的に勧めないそうです。
そうなると③も避けたい。となると残る選択肢はひとつ。わたしは「②メソトレキセート(MTX)点滴」を選択しました。治療方法を最終的に決めるのは自分なので、本当に悩んで悩んで、家族や医師とも相談しながら出した結論でした。
選択した治療法「MTX点滴」
さて、そうして抗がん剤治療を行っていくことを選択しましたが、使用される「メソトレキセート(MTX)」がどんな薬なのかが気になりました。わたしは、抗がん剤というと「脱毛」「吐き気」「激やせ」みたいなイメージがあります。ですが、説明を受けたところ抗がん剤としては最も弱い部類で、わたしが投与する量では脱毛や吐き気が起こることはほとんど無いそうです。
●注射用メソトレキセート50mg(点滴注射)
わたしが実際に使用した抗がん剤はこれでした。メソトレキセートは薬剤名で、一般名は「メトトレキサート」というそうです。こちらのお薬の詳細は以下の通り(こちらより一部抜粋)
薬効分類
- DNA合成に必要な葉酸代謝酵素を阻害し細胞増殖を抑えることで抗がん効果をあらわす薬
詳しい薬理作用
がん細胞は無秩序に増殖を繰り返し、正常な細胞を障害し組織を壊したり、転移を行うことで本来がんのかたまりがない組織でも増殖する。細胞の増殖には遺伝情報が刻まれたDNAの複製が必要となる。DNA(核酸)を構成する成分(塩基成分)には主にアデニン、グアニン、シトシン、チミン、ウラシルという物質があり構造によりプリン塩基とピリミジン塩基に分かれる。これらの塩基は葉酸が体内で代謝されて生成されるテトラヒドロ葉酸によって生成される。テトラヒドロ葉酸はジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)の働きによって生成される。本剤はDHFRなどのDNA合成に必要な葉酸代謝酵素を阻害することにより、がん細胞などの増殖を抑え抗腫瘍効果をあらわす。なお、葉酸代謝拮抗薬のひとつであるメトトレキサート(MTX)はがん治療に使われる他、免疫抑制薬として関節リウマチなどの治療薬としても使われている。
専門用語ばかりで難しいですが、わたしが受けた説明では、妊娠関連組織による腫瘤は人になるはずの細胞の一部なので成長する力が強く、性質としてはがん細胞に近いため、がん治療と同じ葉酸代謝酵素で腫瘤を弱らせることが出来る…というな感じでした。
副作用は?
副作用について病院の薬剤担当の方から受けた説明は以下です。
<出る可能性が高い副作用>
・免疫力の低下(感染予防で必ず手洗いうがい、人混みではマスク)
・口内炎
・下痢
<日常生活での注意>
・投与日は尿の色が濃くなることがある(投与から3日間は2回トイレの水を流すと良い)
・投与日は水分を多めに摂取する
心配だった脱毛や吐き気については、弱い部類の抗がん剤のうえに投与量ががん治療と比べてかなり少量なのでほとんど出ないとのこと。まれにそういう副作用が出る可能性もゼロではないものの、大半は口内炎や下痢程度で日常生活にはほとんど支障が出ないとのことでまずは一安心しました。
▼その後の抗がん剤治療と完治までの経過はこちら
☆なつつ☆
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